患者さんの声Sさん
小用後、残尿感があり漢方薬を服用しているがなかなか治らない
小用後、残尿感があるので漢方薬の、八味地黄丸を服用していますが、切れがよくありません。
尿はすぐに出るのですが、そのあとだらだらと残ってしまうので、おしぼりで拭いています。
前立腺肥大ではないので、肛門をしめる訓練をすればよいといわれましたが、なかなか治りません。なにか、漢方でいい治療法はないでしょうか。
三浦医師の回答
猪苓湯(ちょれいとう)や五苓散(ごれいさん)が有効では。尿の症状以外に何かあればそれを治療すること。
尿の切れが悪いことを、漢方では “余瀝(よれき、瀝は水がしたたるという意味)”といい、より重傷でうまく出なくなったものを ”癃閉(りゅうへい)”といいます(これらは、すでに2000年以上前の医学書『黄帝内経』にも書かれており、その治療法も古くから研究されてきました)。
漢方では、本病が起こる原因には、以下の2つがあると考えています。
その一つは、臓器の動きが低下した場合(虚証、きょしょう)です。この時には排尿痛や黄色く濁った尿などの強い尿症状はありませんが、夜間尿などが見られます。
この虚証は主に腎か脾の機能低下によっておこると考えています。まず腎ですが、尿の調節を行うのが、この腎です。また、腎は人間の一生を支配する生命力を蓄えてられている臓器で、老人になると、この作用が弱まってきます(腎虚、じんきょ)。つまり、老人の方の多くは、この腎虚によって本病がおこります。その症状は、腰や下肢の重だるさや痛みのほか、手足が冷えたり、寒さによって悪くなるなどの寒症状が加わるのが特徴的です。その治療には八味丸がよく使用されます。
脾は消化吸収を行うとされている臓器です。そのほか、体の中の物質を上に引き上げている働きがあるとされています。そのため、脾の作用が衰える(脾虚、ひきょ)と尿も上に保っていけず、漏れてしまうと考えているのです。下痢・食欲不振・食後腹部が張るなどの消化器症状が同時に認められることが脾虚による本病の特徴です。
補中益気湯(ほちゅうえっきとう)や小建中湯(しょうけんちゅうとう)がよく使用されます。そのほか、腎虚や脾虚以外の虚証には、桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)も用いられます。
二つ目の原因は、熱など有害なものが膀胱に停滞した場合です(実証、じっしょう)膀胱炎がその典型ですが頻尿・排尿痛・排尿時の熱感・黄色尿など尿症状が強く出てきます。五淋散(ごりんさん)や竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)、軽い場合、五苓散(ごれいさん)・猪苓湯(ちょれいとう)などが用いられます。
このように漢方では、病気の場所を一つに限定せず、広く全体的にとらえているところにその特徴があります。そのため治療は、全身の調子を整えることに目標がおかれるのです。
さてあなたの場合は残尿感以外に症状が書かれておらず、判断しにくいのですが、八味地黄丸(はちみじおうがん)で効果がないようですので、腎虚ではないようです。さらに、膀胱炎もなく、脾虚などの全身症状もないようです。としますと、軽い実証の薬である猪苓湯か五苓散、または桂枝加竜骨牡蛎湯がよいように思います。
もし尿症状以外にも症状があれば」、その改善をはかることにより、よくなる場合もあります。いずれにしても、漢方専門医相談されることをお勧めします。
暮らしと健康 1990年 特集 しつこく中高年を悩ます 前立腺 膀胱の病気を治す
専門医が答える健康相談室より引用
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