附子(ぶし)による中毒とはどのようなものですか。また起こさないためにはどんな注意が必要ですか。

附子とは鳥兜(とりかぶと)の根。とりかぶとの名は、紫色の花の形が雅楽の楽人がかぶる鳥の形をした帽子を連想させるところからきています。漢方では鳥頭(うず)というのもこの花の形からです。附子の毒性は中国でも西洋でも古くから知られ、ギリシャの哲学者アリストテレスも附子を服用して死亡したといわれます。

附子は乾姜(かんきょうー乾燥した生姜)や肉桂(にっけいーニッキの皮)とともに、体を温める漢方薬の代表的なものです。体を温めて低下した生命力を高めて体の機能を活発にする作用、つまり代謝の促進が主なもので、その他に強心・利尿・ 鎮痛の各作用もあります。ショック状態、エネルギーが低下した人、浮腫、リウマチなどの関節痛、下痢、息切れ、感冒などに使用されますが、いずれも体が冷えた状態のときに使用されます。附子は西洋薬の強心剤やステロイド剤のように、起死回生の薬として使用されるものなのです。 

これらは、附子にあるアコニチンとよばれる成分の働きなのですが、多量に服用するとこのアコニチンが中毒を引き起こすのです。附子は毒にも薬にもなる薬というわけです。 

その毒性はとても強く、最悪の場合には死に至ります。中毒はまず神経系統を犯し、皮膚のシビレや痛み・嘔吐・めまい・悪寒や熱感・口渇などが起こり、次いで動悸・呼吸困難・下痢・倦怠感・無力感・視力低下などが出現し、最後には呼吸や心臓の停止を引き起こすのです。 

附子の毒性は東洋医学でも古くから判明しており、中毒を起こさないように、以下のような工夫がされています。

  1. 加熱すれば毒性が少なくなるので、加熱処理した附子 (炮附子)を使用する。
  2. 長時間煎じるようにする(少なくとも40分以上、60分煎じれば問題ない)。
  3. 最初は少量(0.5-1グラム)から使用し症状に合わせ徐々に増やす。
  4. 症状が取れれば速やかに中止する。
  5. 毒性を中和させる甘草(かんぞう)や大棗(たいそう)、蜂蜜などとともに使用する。
  6. 適応証をする。

このうちとくに大切なのは附子の適応状態以外には使用しないことです。附子は前述のように、虚証で寒証つまり虚弱体質で冷え性の人に使用されるもので、 実熱証つまり元気で暑がりの人や体に熱がある人には禁忌なのです。また小児や妊婦には通常使用されません。このような人が使用すれば、中毒になりやすいというわけです。

通常は漢方の専門医の治療を受けていれば、附子中毒はあまり心配することはないでしょう。過去にある中毒死は毒草とは知らずに採取しみそ汁の具などで食べた結果起きたものがほとんどです。ですから、生の附子はそのまま決して飲んだり食べたりしないでください。 

附子の入った漢方薬を飲むときには以下のような注意が必要です。

  1. 中毒症状は舌や口のシビレ感、舌の硬直感などが最初起こり、次いで腕のシビレ感やめまい、熱感や悪寒などが出現することが多い。服用後にこれらの症状が起きた場合にはすぐ中止して相談する。
  2. 指示された煎じ時間を守り、10分以下の短い時間で終了しない。
  3. 決められた用法を守り、一度に1日分や2日分をまとめて飲まない。
  4. 効果が認められないのに漫然と飲みつづけない。
  5. 運動などをして体の活動が高まると中毒になりやすいので、服用の前後は安静にする。夏季はとくに注意する。
  6. 効果があったからといって、他人の漢方薬を服用したり、他人に飲ませたりしない。
  7. 飲酒後や人浴後は中毒を起こしやすいことが知られているので、服用はこれらの場合を避ける。

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