以前カゼ薬として出た漢方薬と同じものが、今回は胃の薬として出ました。同じ薬がまったく違う病気にも効くのでしょうか

東洋医学では西洋医学と異なる病気のとらえ方をします。西洋医学で異なる病気であっても、東洋医学では同じ病気として考えられることも多くあり、そのため同様な方剤が使用されることがあります。異なる病気であっても、病気の状態が同じであれば、同じ薬が処方されるというわけです。 

例えば、香蘇散(こうそさん)という処方。香附子(こうぶし)・蘇葉(そよう)・陳皮(ちんぴ)・生姜(しょうきょう)・日草(かんぞう)から構成されますが、 虚証で寒性のカゼの初期に使用されます。実は香蘇散は虚弱体質で冷え性の人の軽い胃痛や食欲不振にも使用されるのです。つまり胃薬にもなるというわけです。 これは構成薬のほとんどが体を温めてカゼを治療すると同時に、胃の働きを整える作用もあるからです。カゼも胃の不調も、虚証 +寒証というタイプの病気の状態であり、そのために同じ薬が使用されたわけです。 

このように一見して異なる病気に同じ薬が使用されることはよくあることで、漢方治療の特色といえます。表に代表的なものを挙げてみたので、参照してください。これを異病同治(いびょうどうち)といいます。その理由を東洋医学的に考えてみましょう。 

東洋医学でも、病気には必ず原因があると考えます。いろいろな症状は、ある原因から引き起こされた結果です。逆にいえば、一つの原因からいくつかの症状が出現するのです。病気を引き起こす原因を本(ほん)、症状を標(ひょう)とよび、治療のときにはなるべく原因(本)の改善を図ろうとするのです。ですから、たとえ症状が異なっていても、その原因が同じであれば、同じ楽が使用されることになるのです。前記の例でいえば、虚証+寒証がその原因というわけです。この考え方によって、一つの方剤で多くの症状に対応することが可能となるのです。 

さらに例を挙げれば、体の強い熱状態(実熱証)を治療する黄連解毒湯(おうれんげどくとう)という薬。イライラやほてりを伴う神経症や吐血などの出血症、赤い湿疹、胃炎などに幅広く使用されますが、これはこれらの症状が実熱(じつねつ)という同じ原因によって、みな出現すると考えられるからなのです。 

この異病同治を可能にしているのは、方剤のなかにたくさんの漢方薬が配合されているからです。  

胃病同治の例

方剤名同じ方剤が使用される異なる病気の例
葛根湯初期の感冒、湿疹。
当帰芍薬散生理不順、冷え性、流産防止。東洋医学的な血虚の状態。
小柴胡湯中期の感冒、胃炎。
黄連解毒湯熱性の神経症、出血症、皮膚炎、胃炎、東洋医学的な実熱証の状態。
五苓散下痢、めまい、浮腫。東洋医学的な痰飲の症状。
小青竜湯気管支炎・喘息、鼻炎。東洋医学的な寒湿証の状態。
防已黄耆湯浮腫、関節炎、東洋医学的な風湿証の状態。
越婢加朮湯関節炎、湿疹、浮腫。東洋医学的な湿証の状態。
荊芥連翹湯ニキビ、慢性鼻炎・蓄膿症、慢性扁桃腺炎。東洋医学的な解毒症の体質。
帰脾湯不眠症、胃弱症、寝汗。東洋医学的な血症+脾虚証の状態。
柴胡清肝湯湿疹、慢性扁桃腺炎。小児の東洋医学的な解毒症の質。

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