「四逆散」など漢方の方剤には難しい名前がついています。なにか意味があるのですか

梅雨も明け真夏日になった頃、じんましんで来院した患者さんに、消風散(しょうふうさん)という漢力薬を処方して、けげんな顔をされたことがあります。名前からカゼを治す薬と勘違いしてしまったのです。もちろんじんましんの治療のために出した薬で、実はこの名前からもそれと知れるのです。 

西洋楽の名称は化学薬品名ではなく、多くの場合製造会社がつけた商品名でよばれます。例えば、解熱鎮痛剤のバッファリンは化学物質asprin (アスピリン)の商品名です。ですから、同じ薬でも会社が違えば名前も違うこととなります。

一方漢方方剤の名前は、中国の過去の漢方医学書のなかで命名されたものが伝統的に使用されています。少数ですが正露丸のように製造元でつけられたものもあります。その名前ですが、芎帰膠艾湯のように読み方が難解なものや四逆散のように命名理由がわからないものもあり、何やら難しい印象を与えます。ですがその命名には立派な理由があるのです。

構成される漢方薬による命名 : 人参湯や柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)などのように、方剤を構成する重要な漢方薬(君薬や臣薬)をその名称としたものです。先ほどの、芎帰膠艾湯(きゅうききょうがいとう)は、七つの構成薬のうち重要な四つからつけたものです。 

構成漢方薬の数よりつけたもの:四物湯(しもつとう) 、四君子湯(しくんしとう) 、八味丸(はちみがん)などで、構成される漢方薬の重要度に甲乙つけ難い力剤が多いようです。 

方剤の効能による命名 : 各方剤の主な働きに基づいてつけられたものです。勘違いされた消風散がこの例ですが、東洋医学ではじんましんの痒みは風邪(ふうじゃ)によって出現すると考えられており、風邪を取り去る(消す)作用がある方剤というわけです。 

もう一例を、加味逍遙散(かみしょうようさん)で見てみましょう。この方剤はさまざまな症状が起こる更年期障害などによく使用されるものです。加味とは漢方薬を加えることで、逍遙散という方剤に山梔子と柴胡を加えたものです。中国語で”逍遙派”とはノンポリ派のことを意味するように、逍遙とは何事にも拘束されず自由に行動する、悠々自適という意味なのです。さらにはぶらつくという意味もあります。つまりこの方剤名の由来は、あちこちに出現する。 いろいろな不快な症状から解き放ち、自由に快適にさせる力がある散剤だというわけなのです。  

重要薬と方剤の効能を合わせたもの:前記のいくつかの方法を合わせたものです。例えば、十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)とは、10種類の漢方薬から構成され、生命力を完全に補う方剤という意味です。 

方剤が適応する病態による命名:ある方剤が効果をあらわす病気の状態を名前としてつけたものですが、あまり多くはありません。例えば、冒頭の四逆散(しぎゃくさん)。”逆”とは、人をさかさにした様子をあらわす字で、決められた順序に逆らうという意味です。体内の気は定まった順番で流れています。定めに従わずに気が停滞している状態を、四つの漢方薬で治療する散剤というのが、そのいわれなのです。

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