漢方薬は自然のままで使われるのですか。毒薬で名高いトリカブトも漢方薬になると聞きましたが…。
漢方薬はとかく自然のままで使用されるように思われがちですが、その多くはさまざまに手が加えられて治療に用いられます。治療に使用するために、生薬に手を加えたり加工することを炮制(ほうせい)とか修治(しゅうじ)といい、 2000年以上の昔から行われてきました。
炮制の目的は、
- 漢方薬には附子などの毒性が強いものがありますが、この毒性を取り除き副作用を少なくする。
- 温性のものを寒性に変化させるなどのように、漢方薬の性質を変える。
- 飲みやすくする。
- 消化吸収しやすくする。
- 保存や貯蔵をしやすくする。
- 効率よく煎じられるようにする。
などで、漢方薬をより有効に利用するために行われるのです。
中国では炮制学という学科があるくらい重要なもので、さまざまな方法があります。ただ現在の日本では、漢方薬専門の薬剤師の養成機関がない、経費がかかる、伝統が失われてしまったなどの理由で、ごく少数のものしか行われていません。
具体的な方法ですが、食物の多くは加工調理してから食べます。そのほうがおいしいし、消化にもよいことはだれでも知っています。また灰でフキ・ワラビなどのアクを抜くことは、主婦の方ならご存じでしょう。このように、食物の保存や調理の仕方に似た方法が取られます。これも多彩な料理を生み出した中国の伝統と関連あるかも知れません。そこで、代表的なものを解説してみましょう。
水による処理:多くの漢方薬は採取後水洗いしてきれいにし、その後日なたや日陰で乾干しされ、乾物となった状態で使用されます。これにより長期保存が効くようになるのです。また、長時間水や薬物に漬けることで毒性や刺激性を緩和させることもできます。
火による処理 : 中華料理では強火やとろ火などの火加減、蒸す、揚げるなどのさまざまな調理方法があります。これらで材料のもち味が引き出され、バラエティーに富んだ料理が生み出されるわけです。漢方薬も同様で、火による処理が最もよく行われます。
そのうちでも最もよく行われるのは、鍋で炒る炒(しゃ)という方法で、消化吸収を高めることができるのです。いろいろなものといっしょに炒る炙(しゃ)というやり方もあります。ともに炒るものによって、漢方薬の作用を変化させるのです。例えば、生姜には吐き気止めの作用がありますが、これといっしょに炒めると薬による嘔吐作用を抑えます。その他酒で炒ると血の巡りがよくなる、蜂密で炒ると薬の性質が緩和され消化がよくなるなどです。またよく使用される炙甘草(しゃかんぞう)は、本来寒性の甘草をこの方法で温性に変化させたものです。ちなみに八味丸(はちみがん)は本来、蜂蜜で練り合わせた丸剤ですが、これは(この薬で起こりやすい)胃腸障害を防ぐ意味もあるといわれます。
強力な火でさっと炒るという中華料理のような方法もあります。炮(ほう)とよばれる方法です。主に漢方薬の毒性を緩和するために行われ、先の附子はこの方法で減毒して使用されます。炮附子(ほうぶし)となるわけです。
因幡の白うさぎの説話のように、灰には止血作用や殺菌作用などの働きがあるといわれます。炮製でも、次の一歩手前まで黒く焦がして、止血作用を強めたり、薬の刺激性を弱めたりする方法がとられることもあります。
水と火による処理:蒸したり煮たりするなどの方法です。例えば、熟地黄(じゅくじおう) は地黄(じおう)に米の酒を加えて蒸したもので、これにより寒性から温性に変化し体を潤す作用が強まります。
ただ、現在の日本では前述のようにごく少数のものしか炮制は行われていません。残念ながら東洋医学はまだ深く浸透してはいないのです。薬を慈しんできた伝統を失いたくはないものです。