漢方の診療を受けるとき、患者はどのような点に注意したらよいのでしょうか。普通の病院となにか違うことがありますか

 東洋医学ではレントゲンや血液検査などの検査は行いませんが、これ以外の診察は西洋医学と基本的には同様です。ただ問診や舌診、脈診、腹診を非常に詳細にするところが異なる点となります。以下注意点を挙げてみます。

①問診(もんしん)

現在なにが一番苦しいか、最も治療して欲しい症状はなにか、それはいつから、どこが、どのような症状なのか―これらを具体的に話すのは西洋医学と同様です。東洋医学で大切なのは、全身の症状をつつみ隠さず話すというところでしょう。というのも東洋医学では、どのような病気であっても、全身の症状に基づいて病態を考え、処方が決められるからです。ですから、例えば皮膚の病気だから、胃腸の不調や便秘は関係ないと思い込み話さないのでは適確な処方が出にくくなってしまうわけです。 

西洋医学ではあまり重要視しない症状も大切になってきます。例えば冷えるのかほてるのか、苦手な季節は夏か冬か、汗はどうか、食べ物の好みは冷たいものかどうか…などです。また女性の生理の状況も重要となります。 

さらにある症状がどのような状況のときに、あるいは何をきっかけにして悪化するのかも大切になります。例を挙げると、頭痛が夏の雨の降る日に悪化するという訴えから、余分な湿気の溜まりが原因と考え、湿気を取り除く漢方薬で軽快をみたことがあります。このように季節・寒さ・熱さ・湿気・乾燥などの気候、ストレス、出産、過去の病気、手術、生活習慣、仕事など、症状が悪化したきっかけと思えることを診察前に確認しておくことも重要です。下記に、主な問診項目を挙げておきますので、参考にしてください。

  1. 寒さ熱さについて…冷え性か、熱がりや“ほてり症”か。悪寒や熱感はあるかなど。
  2. 汗について…汗をかきやすいか、寝汗(盗汗)はあるかなど。
  3. 痛みについて…どのような痛みか。温めたりさすったりすると軽減するか、その逆か。食後に悪くなるか空腹時かなど。
  4. 睡眠について…不眠は“ほてり”を伴うか、夢をよく見るか。寝つけないのか、眠りが浅いのか。いつも眠たいかなど。
  5. 飲食物などについて…①口渇(多量に飲む)か口乾(口内が乾く)か。冷たいものが好きか温かいものが好きか。②食欲があるか、少食か、妙な空腹感があるか、食後のもたれや張り、眠けがあるか。③口が苦いか、粘るか、酸っぱい味がするか、ゲップが出るか、唾液が出すぎるかなど。
  6. 大小便について…①腹痛を伴う便秘か、排便後すっきりするか、残便感はあるか、腹が鳴るか、モコモコ腸が動くか、冷たいものですぐ下痢するか、腹部は温めると気持ちよいかなど。②小便の量や色はどうか、頻尿か、排尿困難か、夜中に排尿するか、排尿痛があるか、尿失禁はあるかなど。
  7. 月経などについて…①月経痛は(前か最中か、温めるとよいか)、周期は、量は(何日続くか)、色はどうか(濃いか薄いか)、血の固まりが出るか、月経前後に体調が悪くなるか。②おりもの(帯下)の色、臭い、量はなど。
  8. 排泄物(痰・鼻汁など)について…どんな色か(黄色・白色・透明など)、どんな状態か(粘るか、薄いか)など。
  9. 症状の出現や変化について…どのようなとき(疲れたとき、ストレスのあるとき、湿気が強いとき、冷えたときなど)に悪化するか。一日のいつ頃よく出現するか。体調の悪い季節はいつかなど。
  10. その他…今まで漢方薬を飲んだことがあるか。その効果はどうか。西洋薬で副作用が起こったことがあるか。アレルギー体質かなど。

②舌診(ぜっしん)

よく舌の苔をそぎ落として来院される方がいますが、これは非常に好ましくありません。自然のまま見せることが、診療には大切となります。やり方は、大きく口をあけ、下唇ぐらいまで出すようにします。外にひどく突き出すと舌の形や色が変ってしまうからです。 

③脈診と腹診(みゃくしん、ふくしん)

脈診は左右の脈を交互か同時に、多くは机の上の枕に載せて診察します。脈は平常の状態をみますので、あわてて到着しすぐ診察を受けたりしないで、時間的に余裕をもって来院されるほうがよいでしょう。また診察室ではとかく緊張しがちですが、ゆったりした気分で受けてください。準備としては、めくりやすい袖の洋服で時計を外す必要があります。

腹診は日本漢方では非常に重要視されます。膝を立てて行う西洋医学のやり方に対し、腹部の緊張をやわらげるために、膝は伸ばしたままで行われます。押したり、摩ったりして腹部の皮膚や筋肉の緊張状態などを診察するわけです。腹部を露出しやすい洋服をつけ、リラックスしていれば結構です。

④その他

顔面や皮膚の状態も重要となります。女性の方は、お化粧はせず 、自然のままの顔で診察を受けてください。下肢の皮膚も見ますので、すぐまくりあげられる服装が望ましく、できればストッキングは脱いでください。

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